障がい者雇用はこの国の希望です。なにかと厳しい試練が続いていますが、日本はもっと自信をもっていいと思います。世界各国の障がい者雇用を見渡しても、都心のオフィスでたくさんの知的障がい者が働いている光景が見られるのは最近の日本くらいではないかと思います。障がい者の雇用に熱心な企業が不況下でも業績を伸ばしたという例がいくつもあります。
  今回、先駆的な取り組みをしている特例子会社を取材させていただきました。福祉や教育とはまったく違う空気の中で障がいのある人々が指導を受け労働力として期待されていることがわかりました。各社それぞれ工夫を凝らしていることもよくわかりました。
  障がい者雇用をしようと思っている企業や支援機関、家族のみなさんにぜひ参考にしていただきたいと思います。

 

 

●特別扱いはしない


 民主党政権になって障がい者制度改革推進本部が設置され、本格的な制度改革の論議が始まりましたが、その中で特例子会社について批判的な意見も散見されます。障がい者だけ集めて一般社員とは違う賃金体系、違う場所で違い仕事をさせているのは差別的だとでも言わんばかりの議論がなされていたことがあります。
  中にはそのような特例子会社があるのかもしれませんが、「SMBCグリーンサービス株式会社」はこう言います。「当社で働きたい!と思ってくださる方々は、銀行の制服を着て、銀行のお仕事をする…そういったイメージを抱いていることが多いはずです。なので、その期待を裏切ることのないよう、銀行社員と同じ制服を着て、親会社・グループ会社から請負う銀行関連の事務をお願いするようにしています」
  また、「NTTクラルティ株式会社」もこのように説明しています。「障がいの有無に関係なく、みんな同じようにチャンスが与えられています。仕事に対する意欲と責任感があれば、誰もが平等です。障がいのある社員・障がいのない社員がお互いに切磋琢磨し、刺激を与え・受けながら成長しています。人それぞれ、得意・不得意があるのは障がいの有無に関係なく当たり前のことなので、自分ができないことは助けてもらいながら、できることは自分自身で行い、そしてできない仲間をフォローしています」
  これまでは知的障がい者の就業といった場合、ほとんどが授産施設や作業所など「福祉」の中で働くことを意味していました。一般就労の場合でも、一部の軽度の障がい者が町工場やクリーニング店など小さな事業所で働くことが多かったといえます。
ところが、最近は大きな企業も特例子会社をつくって知的障がい者を積極的に雇用する傾向が見られるようになってきました。しかも特別な訓練を強いて就労能力が高くなった人を雇用するのではなく、重い障がいのある人でも携わることができる作業を企業が用意し、職場環境を整えて雇用するようになったのです。
  「雇用する上で、決して重度障がいをお持ちの方の採用が難しいとも考えていません」と言うのは「株式会社ワールドビジネスサポート」です。「働く」という事への意識付け、挨拶や言葉遣い、身だしなみや時間管理、健康管理など日常生活での習慣付けができていれば、必ず個々人に仕事への「適性」があると強調 します。その適性に合わせた技能を就業後に習得できるはずなので、ご家庭での習慣付けも含めて就労支援担当の方にお願いをしているそうです。
  多数の知的障がい者を雇用している「第一生命チャレンジド株式会社」は「最初から仕事ができる方を採用したいとは考えていません。それ以前に、挨拶・笑顔・基本的な生活…といったことができていることが大切です」と言います。その上で「人と一緒に仕事をする」のだという意識を持って欲しい、仕事はひとりで行うものではないのでチームワークが何より大切だというのです。もともとの能力の高さよりも、わからないことがあったら「わからないので教えてください」と質問できる、必要なときにはSOSが出せることが重要だと主張します。
  また、通勤が困難な重度の身体障がいの人の在宅勤務というユニークな勤務形態で特例子会社を運営している「株式会社沖ワークウェル」は、パソコンとインターネット・バーチャルオフィスシステムを活用し、全国にいる離れたメンバー同士でコミュニケーションをとりつつ、チームで一つ一つの成果物を作り上げています。

 

 

●知的障がいも精神障がいも


 特例子会社とは障がい者雇用促進法で認められた制度です。別法人の子会社であっても障がい者雇用のための様々な環境を整備するなど、一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認可が得られれば、親会社の雇用とみなされます。
  当初は、身体障がい者が主な対象でしたが、1990年代から知的障がい者中心の特例子会社が増えてきました。職場内のバリアフリーが進み、身体障がい者は親会社で雇用される人が増えてきたのですが、知的障がい者は一般社員と同じ採用や雇用管理の方法では難しい面があり、就職しても職場に定着できずに辞めていく人が多かったからでもあります。特例子会社は親会社とは別の採用方法や処遇・労働条件を設定することが認められているため、軽作業や単純作業に携わる知的障がい者に合った賃金や労働条件を柔軟に設定できるメリットが企業側にはあります。
  また、厚労省が雇用率未達成企業に対する指導を強化し社名公表などをするようになり、本気で障がい者雇用に踏み出す企業が増えてきたことも指摘できます。大企業が集中している東京都内では身体障がい者の求職者は底をつき、知的障がいや精神障がいの人を雇用しなければ雇用率を達成できない状況になりました。さらに障がい者雇用促進法で障がい者の雇用が難しいと考えられる業種について除外率が設定されていますが、これが段階的に引き下げられるようになり、ますます障がい者雇用をする企業の背を押すことになったのです。
  企業グループ内で特例子会社に対して一定の出資や仕事の発注等の関係がある場合、関連会社を含むグループ全体で雇用率の算定ができるようになったことも大きいといえます。
  2000年に109か所だった特例子会社は2008年には242か所と倍増しました。特例子会社で働く身体障がい者は3765人から7107人と倍近くに増えましたが、知的障がい者は855人から4612人と5倍以上に増えているのです。
  精神障がい者の雇用人数が日本で一番多い「富士ソフト企画株式会社」は、急な体調不良によるフレックス制度の利用や欠勤のケースも想定し、チームやペアなど、複数人数で作業するようにしています。万が一の際は、必ず周りの人がカバーをできる体制になっています。専属カウンセラー2名が、各事業所を巡回して、社員の心のケアやカウンセリングを行っています。委託訓練では、実際に精神障がいを持つ社員が講師の役割を果たすこともあります。
 「株式会社キユーピーあい」は、悩み事や困ったことをリーダーに相談したり、月に1度メンタルヘルスのカウンセリングを受ける機会を設けたりと、心のケアやバックアップにも力を入れています。同社では人財育成室が中心になって定着のためのサポートを行っているのが特徴で、人財育成室は採用の段階から関 わり、支援センターや家庭との連絡窓口としての役割も果たしています。時には家庭訪問を行うこともあるというのです。

 

 

●家庭や支援機関と連携する


 親会社内のさまざまな部署、あるいはグループ企業から知的障がい者に向いている作業を集めてきて、それを日々の仕事にしている特例子会社は多くあります。
  知的障がい者にもできる仕事量がまとまってあることで、勤務時間中に仕事がなくなることが少なくなり雇用継続をはかることができるのです。会社内でも必要な仕事を請け負ってくれる部署(特例子会社)として認められ、知的障がい者にとっても会社への帰属意識や仕事に対するモチベーションを高める効果があると言われています。
  親会社とは別の賃金体系をとっている特例子会社も多いのですが、最低賃金を超える報酬が保証され、親会社の社員と同水準の賃金を得ている障がい者もいます。ボーナス、退職金、定期昇給制度がある特例子会社も多いのです。授産施設や小規模作業所など福祉施設で同じような仕事をしてもそれだけで地域生活を送る経済的な見返りが期待できないことを考えると、知的障がい者にとっていかに重要な雇用場所であるかがわかるでしょう。
  これまで作業能力の高い障がい者も職場定着がなかなか難しいケースが多かったのですが、それは1人で一般社員の中にいることで孤立感を募らせたり、人間関係につまづいてもフォローする人がいなかったりするためだと言われてきました。同じ障がいの仲間がある程度まとまっている環境で仕事をすることで、安定した継続雇用ができることを多くの特例子会社が証明しています。特例子会社では、障がい者の雇用管理を専任とする職員が必ず配置されており、障がい者の様子を日々観察し、適切なアドバイスや配慮を行っています。きめの細かい教育カリキュラムを作成したり、ジョブコーチの配置を検討したり、家族との連絡なども行い、働き続けられるようなバックアップができているところも多いのです。
 「日野ハーモニー株式会社」は、生活面のフォローは支援機関に任せ、家庭との接触は基本的に支援機関を通すことにしています。そうすることにより、会社での状況や会社の考えなどをぞれぞれの家庭環境に合った形で噛み砕いて伝えてもらえ、スムーズなコミュニケーションと迅速な問題解決が実現しているのです。毎年1回家族が参加しての懇親旅行を開催し、家庭とのコミュニケーションをとり、信頼関係を築いていることも特徴です。
 「東京グリーンシステムズ株式会社」は「採用については挨拶や協調性なども見ますが、家族や支援センターとのコミュニケーションが取れている環境で生活しているか?にも重きを置いています」と言います。会社勤めの基本「毎日同じ時間に出社すること」は生活がベースにあり、その生活をサポートする家族や支援センターの存在が重要だと考えているからです。

 

 

●採用基準は?


  NPO法人千楽は、2009年に東証一部上場500社に対して知的障がい者の雇用に関するアンケート調査を実施しました。アンケート調査の結果を見ると、「企業ブランドの向上」「ES(従業員満足度)向上」「社内活性化」などが知的障がい者の雇用に期待する要因として強いことわかりました。知的障がい者の雇用を進める意向を示している企業が6割近くあります。すでに知的障がい者を雇用している企業ほど、その成果を実感し今後も雇用を進める意欲が強いこともわかりました。
  一方、まだ多くの企業が知的障がい者の雇用を躊躇しており、100人を超える障がい者を雇用していながら、知的障がい者はゼロという企業も数社あることからうかがわれるように、多数の障がい者を雇用しているからと言って、すなわち知的障がい者の雇用に意欲があるというわけでもないのです。大企業で働くのは無理、オフィスには知的障がい者の仕事がない、社内で理解が得られない――などの先入観がまだ根強いことも回答からは垣間見えました。
  企業側が何を懸念しているのかを見ると、知的障がい者のことをよく知らないことからくる不安、やっぱり継続して働くのは難しいのではないか――といった失敗を念頭に置いて考えることからくる不安が多く見られました。現実に、職場での人間関係のつまずきなどで離職する知的障がい者は多いのですが、そうした配慮ができている企業では長年継続して働いている知的障がい者も大勢います。
  今回の調査ではそのような特例子会社の理念や工夫についてたくさん知ることができました。
 「株式会社京急ウィズ」は「障がいのある社員が本当の意味での“自立”をして欲しい、そのためには会社が一生働ける場でなければならない、一生働くには自分にあった仕事を楽しく続けていく必要がある」と言います。
 知的障がい者がフロントヤードで働くことを実践してきた「株式会社スワン」では300名近い障がい者が働いています。「売れるものを作らなければ給与はもらえない」という考えから、障がいを言い訳にしたり、障がいに甘えることなく、味や品質・サービスなど本質的なところで勝負ができる商品や店舗運営を手がけています。消費者が求める真の商品やサービスを提供することにより、本当の意味で必要とされるお店・会社でありたい…」と言います。


  これから障がい者雇用を進めようという企業に向けて、先駆的な特例子会社がどのような基準で採用しているのかを紹介したいと思います。
 「日総ぴゅあ株式会社」は「資格やスキルも大切ですが、それよりも大切なのは、学ぼうとする姿勢、注意されたとき素直に謝れることです。働きたいという気持ちを大切に、日々の生活の中で実践して、働く喜びを体感して欲しいと思っています」と言います。
 「株式会社京王シンシアスタッフ」が特に重きを置いているのが「誠実なこと」です。「誠実さというのは、社会に出て周囲の人と協調しつつ成長していくためには、欠かせない要素だと思っています。誠実であることにより人からの信頼も得られる、信頼されることがスムーズなコミュニケーションにつながる、そうすると良い人間関係を築きながら楽しく仕事に取り組むことができ、それが自己の成長につながっていきます。せっかく一般企業に就職し、外に出て仕事をするからには、成長していかなければ意味がありません。いつも誠実であることを意識して、自分の成長を実感しながら社会生活を送って欲しいと思っています」と言います。
 「株式会社シンフォニア東武」の採用基準でもっとも大切にしているのは、「素直であること」だと言います。駅名を読み漢字で書けることや、立ち仕事も多いので体力のある方、という条件も判断材料にはなりますが、「素直」であれば教えられたことを吸収し注意されたことを改善できる、そして成長していくことが可能だと考えています。「細かい業務や作業内容など素直であれば時間をかけて繰り返し行うことにより身につけることができる」と説明しています。

 

 

●おわりに


 知的障がい者にとっては、企業で働くことで地域生活ができる収入を得られるだけでなく、福祉にはない刺激を受け自信をもったり自尊感情がうまれたりしています。会社の中で役割を得られることで生きがいを感じている人も多いと言えます。
  また、グローバリゼーションによる大競争やリストラなどで疲れきっている企業も多く、知的障がいの社員が入ってきてから「会社が明るくなった」「社員が刺激されてやる気が向上してきた」「社員が会社に誇りを感じてくれるようになった」という声もよく聞きます。障がい者だけでなく会社や一般社員にとっても良い影響が出ているのです。
  給料が一般社員より安いこと、障がい者だけを囲っていることなどから、特例子会社も差別的だという意見がありますが、知的障がい者にはほとんど縁のなかった大企業が、ようやく知的障がい者を雇用するようになってきたのです。今は悪い面よりも良い面を見て、伸ばしていく時期ではないかと思います。
  まだ障がい者の雇用率未達成の企業が全体の半分はあるのです。未経験の企業が知的障がい者を雇用しやすい特例子会社のような形態について、もっと工夫して広めていくべきだと思います。


  取材に協力していただいた各社には改めて感謝の意を表し、障がい者雇用が今後とも飛躍的に前進することを祈りたいと思います。

 

 

 

2011年3月 NPO法人千楽 副代表 野沢和弘

日本財団助成事業 協力:サンクステンプ株式会社